市場シェアの調べ方|無料で使える情報源・BtoB SaaSでの推計方法・継続把握のコツ
競合の市場シェアを調べる方法を解説。業界レポート・IR資料・SimilarWeb・G2レビュー数など、無料〜有料の情報源を使った市場シェア推計の手順とBtoB SaaSでの実践方法を紹介。
競合の市場シェアを「なんとなく把握している」という状態で事業戦略を立てていないだろうか。「業界2位らしい」「最近伸びているらしい」といった曖昧な認識のまま予算配分やポジショニングを決めると、意思決定の根拠が脆弱になる。本記事では、市場シェアを体系的に調べる方法を、無料で使える公開情報から有料ツールまで網羅して解説する。
市場シェアとは何か・なぜ把握が必要か
市場シェアとは、ある市場全体の売上・収益・顧客数などのうち、特定の企業が占める割合を指す。計算式は「自社(または競合)の売上 ÷ 市場全体の売上 × 100」が基本だが、実務では顧客数や流量ベースで代用することも多い。
市場シェアを把握する目的は主に3つある。
- 自社のポジションの客観的把握:「伸びている」という感覚を数値で裏付け、投資優先度の判断に使う。
- 競合の脅威度評価:シェアが急拡大している競合は、顧客を奪っている可能性が高い。早期に戦略的対応が必要になる。
- 投資家・経営陣へのコミュニケーション:TAM・SAM・SOMを語る際に市場シェアの根拠が求められる。
なお、競合分析フレームワークで整理されているように、市場シェアは競合分析の出発点であり、他の分析(製品力・ブランド・価格など)と組み合わせて初めて意味を持つ。
市場シェアの調べ方
公開資料・業界レポートから調べる
最もエビデンスとして使いやすいのが、調査会社が発行する業界レポートだ。
- 矢野経済研究所:国内市場に強く、BtoB領域の市場規模・シェアレポートが充実している。有料だが、プレスリリース形式で一部データが無料公開される。
- IDC / Gartner:ITインフラ・ソフトウェア領域の世界市場をカバー。Gartnerの「マジック・クアドラント」は市場ポジションの可視化として広く参照される。
- MM総研 / ITR:国内のIT・SaaS市場調査に特化。クラウドサービス分野のシェアレポートが多い。
活用のコツは「プレスリリース検索」だ。調査会社は有料レポートのサマリーをプレスリリースとして無料公開することが多い。「〇〇市場 シェア 2024 矢野経済」のようなキーワードで検索し、数値の断片を収集して組み立てる。
企業IR・決算資料から推計する
上場企業であれば、IR資料(決算説明会資料・有価証券報告書)から売上規模を確認できる。市場全体の推定規模を調査レポートから取得し、競合の売上を割ることでシェアを概算できる。
具体的な手順は以下のとおりだ。
- 競合他社の決算資料から対象セグメントの売上を確認する
- 業界レポートや調査機関から市場全体の規模感を取得する
- 「競合売上 ÷ 市場規模」でシェアを概算する
非上場企業の場合は、登記情報・信用調査データベース(帝国データバンク・東京商工リサーチ)が有効だ。また、競合のIR・資金調達監視の記事で解説しているように、決算情報の変化を継続的に追うことで、シェアの増減トレンドも把握できる。
Web流量ツールから推計する
BtoCやPLG(プロダクトレッドグロース)型のSaaSであれば、Webトラフィックがユーザー規模と強く相関する。
- SimilarWeb:競合サイトの月間訪問数・流入チャネル・直帰率などを推計できる。無料プランでも大まかな規模感は把握可能。複数競合のトラフィックを合算し、自社トラフィックと比較することで流量ベースのシェアを算出できる。
- Ahrefs / SEMrush:オーガニック流入の推計値と上位キーワードのシェア(検索流入シェア)が確認できる。SEOへの投資規模を競合と比較する際にも有効だ。
- App Annie(data.ai):モバイルアプリを持つサービスのダウンロード数・MAU推計に使える。
注意点として、これらのツールの数値は推計値であり誤差が大きい。複数ツールを組み合わせて傾向を掴む使い方が実践的だ。
求人・採用情報から規模を推測する
競合の採用状況は、事業フェーズと規模感を示す間接指標になる。
- LinkedInの従業員数表示:企業ページで現在の従業員数の推移が確認できる。急増している部門があれば、そこへの投資が増えていると推測できる。
- 採用媒体の求人数:Indeed・Green・Wantedlyでの求人数の増減は、事業拡大のシグナルになる。
- Glassdoor / OpenWork:従業員数・評価コメントから組織規模と内部状況を推測できる。
たとえば、競合のエンタープライズ営業職の求人が急増している場合、上位市場へのアップマーケット戦略に転換している可能性が高い。
ユーザーレビュー数・評価数から推測する
BtoB SaaSにおいて、レビューサイトの累積レビュー数は顧客数の代理指標として使いやすい。
- G2:SaaS製品のレビュー数と評価スコアが確認できる。同カテゴリ内での比較が容易で、レビュー数の推移からユーザーベースの成長率を推計できる。
- Capterra / GetApp:SMB〜ミッドマーケット向け製品の評価が集まっている。
- Appstore / Google Play:コンシューマー向けアプリのレビュー数は普及度の強力な指標になる。
同じカテゴリに複数の競合がいる場合、各社のレビュー数の比率を「シェアの代理指標」として使う方法がある。精度は低いが、傾向の把握には実用的だ。
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BtoB SaaSでの市場シェア推計の考え方
BtoB SaaSでは、売上シェアに加えて「顧客数シェア」「ARRシェア」「従業員数ベースシェア」など複数の切り口で推計することが多い。
ARR・顧客数から推計する
スタートアップが資金調達時に開示するプレスリリースには、ARRや顧客数が記載されることがある。これを複数社分収集し、カテゴリ全体のARR合計に対する各社の比率を算出すると、おおよそのARRシェアが見えてくる。
従業員数を使う
SaaSビジネスはカスタマーサクセスやセールスの人員規模が顧客数と相関することが多い。競合の従業員数(特にCS・セールス職)をLinkedInで追うことで、顧客規模の相対比較ができる。
顧客事例・ロゴ数を使う
サイトに掲載されている導入企業ロゴ・事例記事の数は、顧客数の下限値として機能する。競合サイトの事例ページを定期的に確認することで、顧客獲得ペースを推測できる。
BtoB競合調査のやり方では、こうした定性・定量情報を組み合わせた競合プロファイルの作り方を詳しく解説している。
市場シェアを継続的に把握する方法
市場シェアは一度調べたら終わりではない。市場は変動し、競合は戦略を変える。継続的なモニタリング体制を作ることが重要だ。
定期的なIRチェックの仕組みを作る
上場競合が複数いる場合、決算スケジュールに合わせた四半期レビューを実施するとよい。確認すべき項目は次のとおりだ。
- セグメント別売上の増減率
- 顧客数・ARR・NRRの開示値
- 経営陣のコメントに含まれる市場言及
競合サイトの変化を監視する
価格改定・新機能リリース・ターゲット顧客の変更は、競合サイトのコンテンツ変化として現れることが多い。競合のプライシングページ・機能ページ・導入事例ページを定期的にチェックする運用を設けることで、戦略転換の早期検知が可能になる。
このような競合サイトの変化監視には、URLを登録してページの変更を自動検知するツールが有効だ。重要な競合ページをウォッチリストに登録しておくことで、気づかぬうちに戦略が変わっていた、というリスクを低減できる。
スプレッドシートで定点観測する
調べた数値はスプレッドシートに蓄積し、四半期ごとに更新するサイクルを作ることを推奨する。指標例:
| 指標 | 自社 | 競合A | 競合B | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| 推定売上(年間) | ¥XXM | ¥XXM | ¥XXM | IR資料 |
| G2レビュー数 | XXX | XXX | XXX | G2サイト |
| 月間Web流量 | XXXk | XXXk | XXXk | SimilarWeb |
| LinkedIn従業員数 | XXX | XXX | XXX |
このテーブルを継続更新することで、シェアの増減トレンドが視覚的に把握できるようになる。
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市場シェア推計における落とし穴と注意点
市場シェアの調査は情報収集の技術だけでなく、「誤った数値を正しいと思い込まない」クリティカルシンキングが同じくらい重要だ。以下に実務でよく陥る罠を整理する。
市場の定義次第でシェアは大きく変わる
「国内クラウドCRM市場でシェア30%」と「国内SFA市場でシェア5%」は矛盾しない。市場をどう定義するかで、分母が変わるからだ。調査レポートによって市場定義が異なることは珍しくない。同じ数値を引用しても、レポートによっては比較にならないケースがある。
競合調査では、自社と競合が実際に重複している市場を定義することが先決だ。「我々が取り合っている顧客は誰か」を起点に市場の範囲を決め、その定義に沿った情報源を選ぶ必要がある。
推計値の誤差を過小評価しない
SimilarWebのトラフィック推計やG2のレビュー数は、あくまで間接指標だ。SimilarWebは特にトラフィックの少ない中小サイトでは誤差が大きく、実際の流量と数倍単位でずれることがある。G2のレビュー数は、レビューキャンペーンを積極的に行う企業と行わない企業で同顧客数でも大差がつく。
こうした数値は「競合Aのほうが競合Bより流量が多い」という相対的な傾向把握に使うのが適切だ。絶対値を経営会議に持ち込む際は出典と誤差幅を必ず明示し、「推計値」として扱うことを忘れてはならない。
時点のズレに注意する
調査レポートの発行から実際のデータ収集時点には1〜2年のタイムラグがあることが多い。SaaS市場のように成長が速い領域では、2年前のシェアデータはすでに陳腐化している可能性が高い。引用するレポートのデータ取得年度を確認し、最新の数値と組み合わせることが必要だ。
IR資料も同様で、最新の決算が反映されるのは通常2〜3ヶ月後だ。競合が非公開企業の場合は更新タイミングが不規則になるため、「いつ時点の情報か」を必ずメモしておく習慣をつけるとよい。
競合自身の発表数値を鵜呑みにしない
プレスリリースや採用ページに記載される「導入社数〇〇社以上」「MAU〇〇万人突破」は、企業が最もよく見える数値を選んで発表したものだ。定義(有料ユーザーか無料含むか、アクティブの基準など)が不明瞭なことも多く、比較に使う場合は定義の確認が必要だ。
情報源ごとの信頼度と使い分けの整理
多くの情報源を使うほど推計精度は上がるが、情報源それぞれの特性と限界を理解した上で組み合わせることが重要だ。以下に代表的な情報源の特性を整理する。
| 情報源 | 費用 | 信頼度 | 更新頻度 | 向いている用途 |
|---|---|---|---|---|
| 業界調査レポート(矢野経済・IDC等) | 有料(一部無料) | 高 | 年1〜2回 | 市場規模・シェアの根拠づけ |
| IR資料・決算説明会 | 無料 | 高 | 四半期 | 上場競合の売上・顧客数把握 |
| 帝国データバンク・TDB | 有料 | 中〜高 | 随時 | 非上場企業の財務概況 |
| SimilarWeb | 無料(一部有料) | 中 | 月次 | Web流量の相対比較 |
| Ahrefs / SEMrush | 有料 | 中 | 週次 | 検索流入・キーワードシェア |
| G2 / Capterra | 無料 | 中 | 随時 | BtoB SaaSの顧客数代理指標 |
| 無料 | 中 | 随時 | 従業員数・採用動向 | |
| 競合プレスリリース | 無料 | 低〜中 | 随時 | ARR・顧客数の公表値(定義要確認) |
信頼度が高い情報源(調査レポート・IR資料)は更新頻度が低く、トレンドを追うのに向かない。一方、SimilarWebやLinkedInは常時更新されているが精度が低い。この特性を踏まえ、「四半期に一度はIR資料と調査レポートで根拠を更新し、月次ではSimilarWebとLinkedInで変化の兆候を捉える」という二層構造の運用が実践的だ。
業界別・事業モデル別の調べ方の使い分け
市場シェアの調べ方は、事業モデルや業界によって有効な手段が異なる。画一的なアプローチではなく、自社の置かれた状況に応じて優先する情報源を変えることが重要だ。
BtoCサービス・ECの場合
BtoCやECでは、Web流量と実際のユーザー数・売上の相関が比較的高いため、SimilarWebやApp Annieの活用が中心になる。加えて、Googleトレンドを使ったブランド検索ボリュームの比較も有効だ。「Shopify 比較」「BASE EC」のようなブランドキーワードの検索量を複数社で比べることで、認知度・関心度の相対的なシェアが見えてくる。
小売・ECの上場企業であれば、GMV(流通総額)やアクティブバイヤー数を開示していることが多く、これをカテゴリ全体の市場規模と照合することでシェアを算出しやすい。
BtoB SaaS・エンタープライズの場合
BtoB SaaSでは前述のARR・顧客数推計が中心になる。加えて、パートナー・リセラーネットワークの規模も競合力の代理指標として使える。Salesforceであれば認定パートナー数や認定資格保有者数はすべて公開されており、エコシステムの大きさからシェアを推測できる。
また、大手企業向けSaaSではRFP(提案依頼書)の対象として挙がる頻度が実質的なシェア指標になることがある。業界のコンサルタントや導入支援会社にヒアリングすることで、「どの製品がRFPに呼ばれることが多いか」という定性的な実態が把握できる場合がある。
ローカル・地域密着型サービスの場合
飲食・美容・医療・不動産のような地域密着型サービスでは、全国市場よりも地域別のシェアが重要になる。Googleビジネスプロフィールのレビュー数・評点、食べログ・Googleマップでの店舗数、ホットペッパーやSUUMOの掲載数などが代理指標として機能する。フランチャイズ型のビジネスであれば、加盟店数の公開情報も有力な指標だ。
まとめ
市場シェアの調べ方は単一の正解があるわけではなく、複数の情報源を組み合わせて推計精度を高めるアプローチが実践的だ。
- 公開調査レポートと業界IRで数値の根拠を作る
- SimilarWebやG2レビュー数で補完・クロスチェックする
- BtoB SaaSはARR・顧客数・従業員数の複数軸で推計する
- 定点観測の仕組みを作り、変化をトレンドで捉える
市場シェアの把握は、競合に対する打ち手の精度を高め、社内外のコミュニケーションに説得力を持たせる。まずは主要競合2〜3社についてIR資料とG2レビュー数を確認するところから始めてみてほしい。