TAMSAMSOM市場規模スタートアップ事業計画

TAM・SAM・SOMとは|市場規模の計算方法・3つの違い・BtoB SaaSでの活用例

TAM(全体市場規模)・SAM(到達可能市場)・SOM(獲得可能市場)の定義と違い、トップダウン/ボトムアップ/バリューセオリーを使った計算方法をBtoB SaaSの具体例で解説。資金調達・事業計画への活用方法も紹介。

|12分で読めます

「市場は大きい」だけでは投資家も顧客も動かない

事業計画書に「国内EC市場は20兆円規模で成長中」と書いたことはないだろうか。数字自体は正しくても、そこから「だから自社が何億円を売り上げられるか」は何も示せていない。投資家はその瞬間に資料をめくる手を止め、「で、あなたたちが実際に取れる市場はどこですか?」と問い返す。

TAM・SAM・SOMは、その問いに答えるための共通言語だ。3つの数字を積み上げることで、市場の全体像と自社が現実的に狙える範囲を同時に示せる。資金調達・事業計画・新規参入判断のいずれの場面でも必要になる基礎スキルとして、定義から計算方法、実際の活用例まで順を追って解説する。


TAM・SAM・SOMの定義と違い

3つの頭字語はいずれも英語の略称であり、市場を同心円状に絞り込むフレームワークとして機能する。

指標 正式名称 意味 問いへの答え
TAM Total Addressable Market 全体市場規模 この課題が解決されるなら世界(または国内)全体でどれだけの規模か
SAM Serviceable Addressable Market 到達可能市場規模 自社のプロダクト・リーチ・言語・規制の条件下で実際に届けられる範囲はどこか
SOM Serviceable Obtainable Market 獲得可能市場規模 今の自社リソースと競合状況を踏まえ、現実的に取れる市場はどこか

TAMが「夢の天井」、SAMが「現実のターゲット」、SOMが「今期の目標」と覚えると整理しやすい。投資家はTAMで市場の魅力を判断し、SAMで参入戦略を評価し、SOMで短中期の売上予測が妥当かを検証する。


競合の変化を自動検知してみる

5URLまで無料・設定5分・カード不要

無料で始める →

TAMの計算方法

TAMを算出するアプローチは主に3つある。それぞれ精度と手間が異なるため、用途に応じて使い分けるのが実践的だ。

トップダウンアプローチ

業界レポートや政府統計など既存のマクロデータを起点に、そこから自社が対象とするセグメントの割合を掛け合わせる手法だ。

  • 出所例:総務省統計局、矢野経済研究所、IDC、Statista
  • 計算式:業界全体の売上規模 × 該当セグメントの比率

手早く数字を出せる反面、前提となるレポートの定義と自社のターゲット定義がずれると大きく誤差が生じる。「IT市場全体」のような広いカテゴリを使うほど精度は下がるため、引用するレポートのスコープを必ず確認すること。

ボトムアップアプローチ

自社が提供する価値の単価と、ターゲットとなる顧客数を積み上げる手法だ。

  • 計算式:ターゲット顧客数 × 年間単価(ARPU)

「国内に中小企業が約360万社あり、そのうち従業員10〜100名の企業が約60万社、IT予算を持つ企業が約20万社、年間ARPUが12万円なら TAM = 240億円」という形で導出する。データの根拠が明確で投資家への説明もしやすいが、ターゲット顧客数の定義をどこに置くかによって数字が大きく変わるため、設定根拠の文書化が必要だ。

バリューセオリーアプローチ

顧客が現在この課題にかけているコストや損失から市場規模を逆算する手法だ。「人事担当者が採用管理に費やす工数 × 平均人件費」のように試算し、「その課題を解くプロダクトが取れる価値の総量」を算出する。新しいカテゴリを創出するスタートアップや、代替製品が存在しない領域での説得力が高い。


SAMの計算方法

TAMから自社が実際に届けられる範囲を絞り込んだものがSAMだ。絞り込みの軸として以下を検討する。

  • 地理的制約:日本語のみ対応であれば海外市場は除外する
  • 製品スコープ:自社プロダクトが解く課題の範囲外のセグメントは除外する
  • 規制・業界要件:医療・金融など特定規制への対応コストが高い領域は段階的な参入とする
  • 顧客規模:エンタープライズ専門ならSMBは除外し、その逆も同様

計算式の例:TAM 240億円 × 日本語対応・SMBセグメント限定(全体の40%)× 自社が解く課題カテゴリ比率(60%)= SAM 57.6億円

ターゲット市場の絞り方については、ターゲット市場の決め方も参考にしてほしい。


SOMの計算方法

SOMはSAMからさらに「今の自社が現実的に獲得できる市場」を絞り込む。以下の要素をもとに算出する。

  • 営業・マーケティングのリーチ:現在の営業チームやインバウンドチャネルが到達できる顧客数
  • 競合の市場シェア:主要競合がすでに押さえている顧客割合を差し引く
  • 製品成熟度:現在のプロダクトが対応できる顧客セグメントに限定する
  • 時間軸:通常は1〜3年の計画期間で試算する

計算式の例:SAM 57.6億円 × 自社が到達できるチャネルカバレッジ(20%)× 競合が空けているシェア(30%)= SOM 3.5億円

SOMが小さく見えても悲観する必要はない。投資家はむしろ「SOMを過大に見積もっていないか」を疑うため、保守的かつ根拠のある数字の方が信頼性が高い。


よくある計算ミスと対処法

TAM/SAM/SOM計算は概念こそシンプルだが、実際に数字を作る段階では特有のミスが発生しやすい。事前に把握しておくことで、投資家やレビュアーからの指摘を回避できる。

ミス1:TAMとSAMを混同する

最も多いミスは、TAMとして提示した数字が実質的にSAMに過ぎないケースだ。「国内のマーケティングオートメーション市場500億円」と書いても、そのうち自社プロダクトが解決できる課題は一部にすぎない。TAMには業界全体の「課題解決が生む価値の総量」を当て、SAMで自社の現実的なリーチを示す二段構えを忘れないこと。

ミス2:ボトムアップとトップダウンの結果を検証しない

2つの手法を使いながらも、それぞれの結果を突き合わせて整合性を確認していないケースがある。ボトムアップで算出したTAMがトップダウンのそれと大幅に乖離している場合、前提となる顧客数や単価設定のどちらかが誤っている可能性が高い。両手法の差が20〜30%以内に収まるか確認し、大幅に乖離する場合は前提を再点検する。

ミス3:SOMを売上目標の逆算で作る

「3年後に売上5億円を目標とする、だからSOMは5億円」という組み立てを行うケースがある。SOMは売上目標を正当化するためのものではなく、市場構造と自社のリソースから客観的に算出するものだ。SOMを目標から逆算すると、前提が甘くなり、デューデリジェンスで即座に見破られる。チャネルカバレッジと競合シェアを起点に独立して計算し、それが目標に近ければ計画の整合性が取れていると説明する順序が正しい。

ミス4:年次で更新しない

市場環境は変化するにもかかわらず、一度作ったTAM/SAM/SOMをそのまま使い続けるケースは多い。競合が新たなセグメントに進出したり、新技術が市場構造を変えたりすれば、前期の数字は意味を失う。事業計画の年次見直しに合わせてTAM/SAM/SOMも更新する習慣を持つと、経営判断の精度が上がる。

ミス5:市場規模をポテンシャルの上限と混同する

TAMは「もし全顧客が自社製品に切り替えたら」という理論値だ。実際の売上上限ではない。TAMが1,000億円でも自社が独占できることを意味しないし、そうした説明をすると投資家の信頼を失う。TAMはあくまで「市場の天井」として位置づけ、現実的な獲得見通しはSOMで示す役割分担を明確にしてほしい。


TAM/SAM/SOM試算に使えるデータソース

数字の信頼性は根拠となるデータの品質に直結する。TAM/SAM/SOMの試算でよく使われるデータソースを目的別に整理する。

国内マクロデータ・統計

  • 総務省統計局(stat.go.jp):事業所・企業統計調査、家計調査など。ターゲット顧客数の算出に欠かせない基礎データを無料で取得できる。
  • 中小企業庁「中小企業白書」:国内の中小企業数・業種別分布・IT投資実態を把握するのに有効。ボトムアップ計算の顧客数推計に活用できる。
  • 経済産業省「商業動態統計」「特定サービス産業動態統計」:小売・サービス業の売上トレンドをセクター別に追跡できる。
  • 国土交通省・農林水産省の白書類:業界特化の市場規模データが必要な場合はセクター担当省庁の統計を確認する。

民間調査レポート

  • 矢野経済研究所:IT・ヘルスケア・流通など国内市場の専門レポートが豊富。有料だが、プレスリリースで無料公開される市場規模サマリーも活用できる。
  • IDC Japan:ITインフラ・ソフトウェア・クラウドサービスの国内市場規模を定期的に発行している。
  • Statista:グローバルおよび国内の多様な市場統計をサブスクリプション形式で提供。英語が中心だが日本語データも増えている。
  • MM総研:国内ICT市場の調査に特化しており、SaaS・クラウド・スマートデバイス市場の動向把握に強い。

競合・上場企業の公開資料

上場企業の有価証券報告書・決算説明資料には自社の市場規模認識やセグメント別売上が記載されている。競合がどの市場にどれだけの売上を計上しているかを把握することで、SAM・SOMの現実感を校正できる。米国上場企業の場合はSEC提出資料(10-K, S-1)がSAM試算の参考になる。スタートアップのピッチデック流出版(SlideShare・Speakerdeck等)も、業界の市場規模認識を集約する手がかりになる。

一次情報による補完

既存のレポートだけでは精度に限界がある。自社のターゲット顧客に対するインタビュー調査(10〜30件程度)と、簡易アンケート(Googleフォームやタイプフォーム)を組み合わせることで、顧客の支払い意欲(WTP)や既存ツールへの支出を定量化できる。バリューセオリーアプローチを採用する場合は特に、顧客が現在この課題にかけているコストを一次調査で裏付けることが説得力の向上につながる。


競合の変化を自動検知してみる

5URLまで無料・設定5分・カード不要

無料で始める →

BtoB SaaSでの計算例

「中小企業向けWebサイト変更検知SaaSを日本国内で展開する」ケースで試算する。

前提条件

  • 国内の中小企業(従業員5〜300名):約200万社
  • そのうちWebサイトを保有・更新している企業:約60万社
  • IT予算・Web担当者がいる企業(技術スコア絞り込み後):約15万社
  • 月額ARPU:5,000円(年間6万円)

TAM(ボトムアップ) 15万社 × 6万円 = 900億円(国内全体でWebサイト変更検知ニーズがある企業の潜在市場)

SAM 15万社のうち、従業員10〜100名・非製造業・自社のインテグレーション対応CMSを使っている企業:約3万社 3万社 × 6万円 = 180億円

SOM(3年計画) 現在の営業・インバウンドチャネルで3年間にアプローチできる企業:SAMの8% 既存競合が未カバーの領域:そのうち50% 180億円 × 8% × 50% = 7.2億円

この数字をARR目標7億円と対比すると整合性があり、資金調達資料の説得力が増す。


TAM/SAM/SOMを使う場面

資金調達資料(ピッチデック)

VCや事業会社からの資金調達では、TAM/SAM/SOMのスライドは必須構成だ。TAMで市場の天井を示し、SAMで自社のフォーカスを説明し、SOMで投資回収の現実性を裏付ける。数字の根拠(出所と計算ロジック)をスライドのノートか補足資料に記載しておくと、デューデリジェンスの質問に素早く答えられる。

新規事業・参入判断

新規市場に参入すべきかを判断する際、SOMが既存事業の機会コストを上回るかどうかが基準になる。SOMが小さすぎれば参入を見送るか、製品スコープを広げてSAMを拡張する必要がある。

競合との比較・ポジショニング

競合他社が同じSAMの中でどのシェアを持っているかを把握することで、自社が狙える空白地帯が見えてくる。市場シェアの調べ方については市場シェアの調べ方で詳しく解説している。


競合との市場規模比較から読み取れること

TAM/SAM/SOMは自社単体で見るだけでなく、競合との比較で使うと戦略的示唆が増す。

  • 競合がSAMの大半を占めている場合:同じSAMで戦うのではなく、SAMを再定義(地域・セグメント・機能)して競合の手が届いていない領域を狙う
  • 競合がSOMを小さく見積もっている場合:市場教育コストが高い証拠であり、参入コストとTTM(市場投入時間)を再評価する必要がある
  • 複数の競合が同じTAMに集中している場合:価格競争が始まっている可能性があり、差別化軸を機能ではなくカスタマーサクセスやインテグレーションに移す戦略が有効

競合分析のフレームワーク全体については競合分析フレームワークを参照してほしい。


TAM/SAM/SOMを定期的に更新すべき理由

市場規模は静的ではない。技術革新・競合の参入・規制変更・マクロ経済の変動など、さまざまな要因によってTAM・SAM・SOMの数字は変わり続ける。一度作成した数字をそのまま使い続けることのリスクと、更新のベストプラクティスを整理する。

更新が必要になる主なトリガー

  • 新規競合の参入:大手企業が同じSAMに参入してきた場合、自社のSOMは即座に圧縮される。競合モニタリングを定常的に行い、シェア変動を反映させる必要がある。
  • 製品・機能の拡張:自社プロダクトが新機能を追加したり、新業種対応を開始したりすると、対応できる顧客セグメントが広がり、SAMが拡大する。
  • 価格改定:ARPUが変化すれば、同じ顧客数でもTAM/SAMの金額は変わる。年次の料金見直し後は必ず試算を更新すること。
  • 規制環境の変化:特定業種向けSaaSの場合、法令対応の有無によって参入できるセグメントが増減する。金融庁・厚労省などの規制動向を四半期ごとに確認する習慣を持つ。
  • マクロトレンドの変化:デジタル化の加速・リモートワークの普及・円安による輸入コスト上昇など、業界全体の需要構造を変えるトレンドが発生した際は、TAMの算出前提から見直す。

更新頻度の目安

事業フェーズによって更新頻度を変えるのが現実的だ。シード〜アーリーステージでは半年に一度の更新を推奨する。この段階では市場理解そのものが進化するため、頻繁な見直しが前提認識のズレを防ぐ。シリーズA以降は年次の事業計画策定に合わせた更新が基本となるが、大きな外部変化があれば随時見直す体制を持っておくとよい。

更新を組織に組み込む方法

TAM/SAM/SOMの更新を個人の作業に依存させると、担当者交代やリソース不足で止まってしまう。更新プロセスを「誰が・いつ・どのデータを使って更新するか」をドキュメント化し、事業計画ミーティングのアジェンダに組み込むことで継続性が担保される。競合情報の収集には競合モニタリングツールを活用し、常時データを蓄積する仕組みを作ると更新コストを下げられる。


まとめ

TAM・SAM・SOMは市場規模を「なんとなく大きい」から「具体的に何億円を取りにいくか」に変換するフレームワークだ。重要なポイントを整理する。

  • TAM:トップダウン・ボトムアップ・バリューセオリーの3アプローチで算出し、使用した手法と根拠を明示する
  • SAM:地理・製品スコープ・規制・顧客規模の4軸でTAMを絞り込む
  • SOM:チャネルカバレッジと競合シェアを掛け合わせて現実的な獲得目標を導く
  • 活用場面:資金調達・参入判断・競合比較の3シーンで必ず登場する

計算の精度より、前提の透明性の方が価値を持つ。数字がどこから来ているかを説明できる状態にしておくことが、投資家・経営陣・チームとの議論を前に進める最短ルートだ。


競合の動向を継続的に把握し、SOMを精度高く管理する

SOMの精度は「競合が今どこを取っているか」の把握精度に直結する。市場シェアの変動をリアルタイムで追い続けるには、競合のWebサイト・料金ページ・採用情報・プレスリリースなどを定点観測する仕組みが欠かせない。

しかし手作業で複数の競合を追跡するのは限界がある。競合モニタリングツールを活用することで、競合サイトの変更検知・価格変動・新機能リリースを自動で把握し、SOM試算のインプットを常に最新の状態に保てる。

市場規模の把握と競合動向の追跡を組み合わせることで、TAM/SAM/SOMは「一度作った資料の数字」から「意思決定を支える生きた指標」へと変わる。事業フェーズが進むほど、この定常的な情報収集の有無が戦略の精度を左右する。

C

Compato 編集部

競合サイト監視ツール「Compato」の開発・運営チームです。市場を先読みするための競合インテリジェンス知識を、BtoBセールス・PMM・CSに向けて発信しています。

競合の価格改定を、顧客より先に知る

設定5分・5URLまで無料・カード登録不要

今すぐ試す →